天正4年(1576年)の毛利方村上水軍と淡輪(たんのわ)眞鍋七五三兵衛(しめのひょうえ)を主将とする泉州水軍の摂津の海域での熱き戦いを描いています。
「焙烙火矢(ほうろくひや)」という陶器、銅、鉄の容器に火薬を詰め、礫の要領で敵船に投げ込み、爆発・炎上させるという村上水軍独自の秘密兵器により、鎧袖一触といった村上水軍の大勝に終わるこの戦いのディテイルを、村上海賊の娘を中心にビジュアルに再現してくれています。
この戦いにより、摂津近辺の制海権を掌中に収め、毛利輝元からの糧食の本願寺への海路補給が可能となりました。
天正3年の長篠の戦いで武田勝頼を破った織田信長は、天正4年に安土城に入り、いよいよ中国の毛利との戦いを視野に入れ、目先の石山本願寺攻略に本腰を入れます。
信長に敵対した一向宗一揆は伊勢長島をはじめ各地に起こりましたがその元締めが石山本願寺だったのです。毛利方も本願寺を助けて、少しでも織田方の勢力を殺ごうとしていました。
NHK大河ドラマの「軍師官兵衛」は毛利方に寝返った荒木村重(田中哲司)により有岡城の土牢に閉じ込められてしまいますが、荒木村重が寝返った原因に彼の部下が本願寺に兵糧を運び、織田信長から裏切りの疑いをかけられたという説が有力のようです。「窮鼠猫を噛む」といった村重の心理的に追い詰められて信長に反逆する物語は、遠藤周作氏の「反逆」に詳しく描かれています。
結局天正6年、第2次の木津川沖(泉州淡輪沖)の戦いでは、九鬼嘉隆率いる志摩水軍が鉄板で装甲された6隻の大型船で、村上水軍の焙烙火矢の効果を抑え込んで逆転することになりますが、「村上海賊の娘」ではこの戦いのことは切り捨てられていました。
海賊の戦いが活劇風に描かれていて実に面白い作品でした。 和田竜氏はもともとシナリオライターで、この小説もシナリオを作成してから書き込んでいったとのことです。映画化が楽しみですね。 醜女でなおかつ別嬪で大立ち回りのできる大きな目と大きな口の大女ってイメージの主役の「景」は誰が演じるのでしょうか?