黒田官兵衛の生き様に対して坂口安吾は辛口です。
豊臣秀吉や徳川家康に戦いにおける謀略の才能を恐れられながらも、無用に他人の不信感を買いがちで、安定感のある政治力が欠如しており、戦争マニアとして見くびられていたと切って捨てています。
歴史のターニング・ポイントでは結局狂言回しのような役回りしか与えられなかったということを、「第一話 小田原にて」、「第二話 朝鮮で」、「第三話 関ヶ原」の三部構成で伝えています。
朝鮮出兵の際、小西行長が何故先鋒となって加藤清正等を出し抜いて真っ先に京城に乗り込まなければならなかったのかという理由や、若手策士の石田光成と若手の暴走にふてくされた黒田如水の微妙な対立を扱った事件等を紹介していました。
秀吉の子飼いの石田三成が能吏として頭角を表してきたにもかかわらず、秀吉の参謀として彼を天下人に押し上げたという自負のある如水は三成の成長を認められなかったようです。
安吾はそんな如水を「昨日の老練家は今日の日は門外漢となり、昨日の青二才が今日の老練家に変わっているのに気が付かない」と批判しているのです。
最期まで野心を捨てられなかった「戦争マニア」と断じる安吾には、如水は時代を読み間違った愛すべき二流の人とみえたということでしょうか?
同じ戦争マニアにしても、戦争狂ともいえる上杉謙信から薫陶を受けた直江兼続には私欲も外連味もなかったと安吾は書いています。その直江兼続の高弟に真田幸村がいました。直江兼続も真田幸村も家康嫌いで、家康の横っ面をひっぱたくのを満身の快とするだけでした。家康に息子長政を差出し、しっぽを振った如水との違いを強調しています。
話は逸れますが、黒田如水と直江兼続の共通点といえば、二人とも正妻1人で側女をもたなかったことです。2009年に上杉景勝の軍師ともいうべき直江兼続の実像に迫った「天地人」で、妻夫木聡の演じる直江兼続の正妻はお舟(おせん)でした。常盤貴子が演じていました。2013年の岡田准一演じる「軍師官兵衛」の正妻はお光(おてる)で中谷美紀が演じています。