アフリカの紛争地からオーストラリアに逃れてきた難民の女性と、夫についてその地に渡り翻訳の勉強をしている日本人女性の人生の交差が描かれています。
それぞれの立場、生活、事件を抱えながら、人間としての女性としての自立心を奮い立たせながら、異国の言葉と格闘する姿に驚きます。スーパーの作業場で働き、語学学校で学ぶ異なる事情を抱えた孤独な二人が異なる英語で、やがて心を通い合わせることになっていきます。
言葉の壁に苦しみながらも、言葉によって世界を拡げ、出会いを可能にし、成長する尊さと、言葉によって説明しえない人間の尊厳にまで迫るこの小説はもう読んでもらうしかないですね。
日本で生まれ育ち、日本で暮らしている日本人にはうかがい知れない、生きるための、気持ちを伝えるための手段としての言葉の大事さと、アフリカで経験した惨状を伝えきるにはどんなに雄弁な言葉でさえ不完全であるということを思い知らせててくれる小説でした。
限られた語彙数で、それでも思いを伝えようとし、またその言葉を選ぶ原始的ともいえるサリマというアフリカ人女性の朴訥さが胸を打ちます。
2013年5月8日に第29回太宰治賞に選考された作品です。
今週木曜日16日夜に受賞作発表予定の第150回芥川賞の候補にもなっています。
166ページという薄い本なのでさくっと読めますが、ぐっと心を掴まれる小説です。