高貴な美男子や美女に浪漫の香り漂う華族のきらびやかな世界、最後の元老と呼ばれた西園寺公望をモデルにしたような老人、陸軍の今上天皇をないがしろにする赤裸々の雑言、上野のカフェーで起きた殺人事件、華族の子女が治安維持法違反容疑で逮捕される事件と、その裏に潜む「天皇制打倒」を掲げる共産党、・・・・・、読み進めるにつれ、敗戦で消滅してしまった華族制度の世界が鮮やかに立ち上がってきて壮大な物語に期待が膨らんでしまった割には、ミステリーの種明かしとなる終盤にはやや興ざめでした。
途中まで4回転ジャンプを決めてくれていたのに、フィニッシュでよろけてしまった感じです。
「ジョーカー・ゲーム」や「ダブル・ジョーカー」の読者としては少々肩すかしをくらったというところでしょうか。
今や亡き、確かに存在した「華族制度」に対する郷愁に「ロマンス」の残り香を嗅いだような気持ちにさせられたことは、しかしながら収穫でした。
ニュアンスはちょっと違うかもしれませんが、小学校高学年で読んだ「眠狂四郎」の舞台背景となっていた、伴天連やギヤマンの世界にも・・・郷愁のようなもの、手の届かないものに憧れ、わくわくどきどきしてしまう経験をしました。そのような懐かしいことを想い起こさせてもらいました。