時代は今、サンクトペテルブルグ大学の日本語学科の生徒への講演会というという設定で、話が口語体で、それこそ講演会のようにあちらこちらに飛びながら進んでいきます。
安重根による伊藤博文暗殺と幸徳秋水、菅野須賀子等の大逆事件を夏目漱石の新聞寄稿文や小説を媒体として切り取って見せてくれました。
この大逆事件を扱った小説といえば、辻原昇氏の「許されざる者」があります。
夏目漱石の時代は、いろいろなことがあったのですね。司馬遼太郎の日露戦争を扱った「坂の上の雲」にも、正岡子規や、夏目漱石が登場していました。
菅野須賀子の元夫であった荒畑寒村の話も面白く講演基調で書かれていました。
この小説で、「その通りだ」と感じた部分です。
「たとえどれほど社会への関心が強い良い人間でも、イデオロギーだけで生きることはできません。つまり、どんな人間にも、一日は二十四時間しか許されていないということです。その二十四時間のなかで、食べたり、働いたり、考えたり、闘うなら闘い、愛しあえる人はそうしたり、眠ったり、入浴したりで、とにかく全部含めて、誰もが一日二十四時間に納めなければいけないわけです。これは、主婦でも、大統領でも、労働者でも、年金暮らしの老人でも、同じでしょう。一人ひとり、それが自分自身の場所なのです。イデオロギーだけで世の中に出て、際限なく暴れまわっているわけにはいかないのです。」