会社法上使われている「職務」は、会社法が会社の機関(取締役、取締役会、監査役会・監査役、会計監査人等)に対して権限を与え、その遂行を求めている経営機能/役割という意味で解釈することが一般的です。
たとえば、会社法第362条には、「取締役会は次に掲げる職務を行なう」として①取締役会設置会社の業務執行の決定、②取締役の職務の執行の監督、③代表取締役の選定及び解職の3つが記されています。
また会社法381条で、「監査役は取締役の職務の執行を監査する。この場合において、監査役は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない。」とされています。
これに対して、「業務」は、会社の定款に規定されている会社の目的(事業目的)を実現するために事業組織としての企業が遂行すべき行為です。会社の業務を遂行できるのは、会社の執行機関である「代表取締役」です。
いうまでもないことですが、「取締役会(監督機関)の業務」とか「監査役会・監査役(監査機関)の業務」という表現はありえません。
取締役の職務という表現には、取締役の業務遂行、取締役会や監査役会・監査役への報告義務の履行、取締役会の構成員としての他の取締役等の職務の執行監督が含まれます。
言い換えれば、代表取締役・取締役の業務執行は、取締役の職務執行の一部です。
この点で、会社法における「職務」は「業務」より広い概念といえます。そして、極論すれば、会社という組織を株主の視点からみた執行・監督・監査の各機関の牽制体制の企業統治(コーポレート・ガバナンス)では、「職務」という言葉が使われ、社長の視点からみた経営目的達成のための企業という事業組織運営では「業務」という言葉が選ばれていると考えることもできます。