タイトルのもとになっているのは甲州韮崎あたりの方言の「ささらほうさら」。「あれこれいろんなことがあって大変だ。大騒ぎだ。」という意味です。これだけでもきれいな言葉の韻がありますが、さらに季節感を加えて「桜ほうさら」という美しい造語の題になっています。
父親が冤罪で腹を切らされた次男坊が、浪人として江戸は深川の長屋で写本の手伝いをしながら暮らすことになります。ちょっとぼんやりして刀の腕もからっきしの主人公ですが、長屋のいろんな人に助けられながら、父親の仇を探しだすお話です。武家の人情、家族愛、長屋の連中の情け、男女の愛等、いろんなものがぎっしり詰まった人情物語に仕上がっています。さすがは宮部みゆき、深川の長屋の風情の描写は絶品です。
春らしくほっこりした読後感でした。
琴線に触れた部分を2か所抜粋します。
①噂というものは、立場が違えば聞こえてこないこともある。対象を見おろしているか、見上げているか。その立ち位置で、わかることとわからないことがある。(人間は、結局言葉にならないことについては、自分でそうありたいと思うようににしか聞こえてこない? 親子、上司、部下、先生、生徒等の立場の違いによって噂に対する感度が異なってくるということでしょうか?)
②老師にこのように教わっていた。曰く、わからないことに直面したときには、焦ってはいけない。わからぬものを強いてわかろうと、いきなり魚を捌くようにしてしまえば、わからなかったものの本体がどこかへ逃げ去ってしまう。故に、わからぬものに遭遇したら、魚をいけすで飼うようにそれを泳がせ、よくよく見つめることが正しい理解へ至る大切な道筋だ、と。よろずの学び事に向き合うとき、この老師の教えを常に胸に浮かべてきた。(試験日まで時間が限られた学びには適用しにくい考えですが・・・。)