胸キュンものの書評家である「北上次郎」氏が本の雑誌11月号で絶賛していたので気になっていた本でした。
東京から大阪への新幹線でほぼ読み切れました。約2時間半。
ヒロインの強烈なキャラというか、後先あまり考えない流れ者人生というか、恋愛という糸ではなく、母親を必要としている子供に対する嗅覚が異常に強いヒロインが母親のいない子供がいる家庭に住み着く不思議な人生を描いている小説です。
2つの場所も時間も違う物語が交互に語られていき、それが途中で交差していく構成の妙もあって、このヒロインの物語にぐんぐん引き込まれていきます。
後半の展開や、エンディングには賛否両論あるとは思いますが、親子の情をこのような他人の一方的な与える愛として突き放した設定で考えさせるという意味でも面白い小説でした。
生みの親より育ての親とはよく言ったものです。そうして母親が一番必要な時期に主人公広美の愛を一杯受けて育った子供たちは、感謝の気持ちとある日突然いなくなったとまどいの気持ちが絡まった複雑な思い出を抱えています。
広美は、そうした母親を必要としている子供に無償の愛を注ぐことで、自分も生きる勇気をもらったのだそうです。広美はそうした子供たちの父親とは同じ屋根の下に住むことから付随的に結ばれていきますが、そこに執着も未練もなく、結婚はせずに、その家庭での自分の居場所がなくなったら、さっと見切りをつけて家を出て、また新しい父子家庭を探す旅に出るのです。
大人の事情とは無関係な子供が「シェーン」と呼ぶ代わりに、去りゆく広美に向けて「おかあさーん!」と呼ぶ、魂の叫び声を聞くような気がしますよ!