タイトルになっている「シェラザード」は千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)で夜毎面白い話を王様に聞かせた王妃の名前です。この物語をもとに、ロシアの作曲家リムスキー・コルサコフが交響組曲「シェラザード」をつくっています。
この小説の主人公はなんと言っても当時世界の最先端の技術と豪華さを誇った客船「弥勒丸」でしょう。豪華客船として建造されながら完成と同時に始まった太平洋戦争のため赤十字マークをつけた病院船として就航することになります。予定されていたサンフランシスコ便としての就航ではなく、太平洋戦争末期の時局で赤十字の徴用船として運用されたわけです。
昭和20年、嵐の台湾沖の東支那海で、2300人の命を積んだまま敵の攻撃を受け沈んだ「阿波丸」が弥勒丸(みろくまる)のモデルです。その弥勒丸の船内でいつも流されていた音楽がこの「シェラザード」でした。
過去と現代の2つの視点から、太平洋戦争末期に台湾沖に沈んだ豪華客船「弥勒丸」(みろくまる)の沈没の真相と、その人間模様を描いた作品です。
この「弥勒丸」とともにもう一人のヒロイン久光律子のひたむきさにも心打たれます。