朝井リョウという大学生の書いた小説すばる新人賞受賞作品です。
桐島というバレーボール部のキャプテンが部を辞めた・・というちょっとした事件が登場人物5人の高校生にどのように影響を与えていくかということを通じて描いた高校生活の一コマです。普遍的な、言葉を変えると、日本の高校生活を経験した人であればたとえば私のような50歳台の人間にも思い当たる節があるような高校生活を描き出しています。
5人の高校生それぞれが独立した短編となっていますが、桐島が部活をやめるという事件を横軸に1つの高校生活の固まりとして繋がっています。物語としての展開はないのですが、高校生の日々の生活、考えていること等の描写にみずみずしい感覚がうかがえます。全体の構図にも織物を紡ぐような精緻さがみられます。桐島という人物が登場しないのも”影絵”のような工夫になっていました。5人の高校生は、ネアカ、ネクラ、主流、亜流、私生活に問題あり・・等の様々なタイプの代表という感じでした。
ささいなことですが、あ~そういうことが自分の高校生活にもあったなという遠い記憶を呼び起こしてくれる・・・そんな本でした。たとえば、クラスの中での自分の位置づけとかグループの棲み分け等は自分ではそんなに意識していたわけではないけど納得できました。
子供にとっての絵本は想像力をかきたててくれる未来志向のものでしょうが、これは振り向かせて懐かしい気持ちにひたれる大人の絵本という印象を持ちました。
作者の予想とは裏腹に若い人だけではなく、40歳台の人に売れているということもわかる気がしました。